ポルトガルやブラジルではよく「サウダージ Saudade」という言葉を耳にします。
懐かしさ、やるせない想い、郷愁などと訳される情緒を表す言葉なのですが、
18世紀から19世紀初頭までこのような感情を歌う歌をmodinha(モディーニャ)といいました。
そこにアフリカ系の軽快な音楽ルンドゥーがミックスされFadoに繋がったとも考えられています。
1820年頃を起源とされるポルトガル国民的歌謡ファド、
何故この時期に「サウダージ」を国民は感じ、謡うようになったのでしょうか?
それは歴史の流れに関係していると思います。
歴史の流れ:
1400年代から海外に進出し、大航海時代を迎えて黄金時代に莫大な富を築いたポルトガル王国。
1600年代からはインド洋の植民地を失い、本国では革命が起きて60年ほどスペインと同君連合を余儀なくされました。
再独立後もブラジルの砂糖生産が衰退するなどして経済が悪化、1755年にはリスボン大地震に見舞われ
1801年にはスペイン軍介入からのフラン・ナポレオン軍侵攻の危機に陥ります。
王室はブラジルへ避難したため本国では国王不在という事態に。
そして長期の経済低迷や実質的イギリスの支配に国民は不満を持っていました。
1820年代と言えばポルトガル王室がブラジルへ移転して10年ほどです。
王族をはじめ本国を追われるようにブラジルに移民して行ったポルトガル人が
(アフリカから奴隷として連れてこられた黒人文化が混在している)ブラジルの地で異文化に出会い、
祖国ポルトガルを想うことはしばしばだったと、
想像するのは容易なことです。
また土地の習慣や文化の違いからだけでなく、
本国に残った人々も「古き良き時代」、最盛期だったかつての王国の繁栄を懐古するようになったとも言えるでしょう。
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哀愁を帯びたメランコリックなメロディーを
情緒たっぷりに歌い上げるヴォーカルのスタイルは
19世紀中ごろにはリスボンでよく見られるようになったとか。
そんなファドに関する資料が展示されているファド博物館に行ってきました。
目次
ファド博物館
楽器の展示
ファドの歌には必ず伴奏が加わります。
その伴奏になくてはならないのは12弦のマンドリンに似た
ポルトガルギター=ギターラとガット・ギターやコントラバスです。
博物館ではギターラの展示とその製作工程をビデオで紹介しています。
哀愁漂う音色はギターラ無しではありえないくらい心根に響く音色です。
絵画のコーナー
ファドを演奏している当時の様子がわかる絵画も展示されています。
よく見かけるファドと言えばこの絵!↑
そして2枚目のこの絵を見ながら
19世紀初頭ポルトガルからブラジルへ移民、そして再びブラジルからポルトガルへ帰国した人々の
ポルトガルへの郷愁、ブラジルへの懐かしさ等の感情が交差し
ファドという音楽となって表現されるようになったのかも?
と勝手に想像しました。
ファドの氷河期:
1974年それまでの独裁政権下で擁護されていたファドは政権崩壊後、人々の心から離れていき
約20年間、1990年代まで下火となっていたそうです。
その後自国文化再興の機運が高まったことにより再評価され
新世代のファド歌手も登場するようになりました。
ファド歌手一覧コーナー
歴代の有名歌手(男性女性)の写真や資料が展示してあります。
視聴ブースもありました。
ファドの女王アマリア・ロドリゲスは23番。
(アマリア・ロドリゲスのお墓に関しての記事はこちら)
1999年79歳で彼女が他界した時ポルトガルは3日間の喪に服したそうです。
この他ショップも併設されているので日本では手に入りにくいCD等も入手できますよ。
入場5ユーロ。最新の開館時間などは公式サイトでご確認下さい。
リスボンでファドの生Live体験!
地下鉄ロシオ駅から徒歩で約10分(800mほど)、路地の中の1軒のお店にファドを聴きにいきました。
このお店(1955年創立)を選んだのは
- 宿から徒歩で行けるということ、
- 老舗で当たりハズレがなさそうだということ、
- 女子お一人様でも大丈夫そうだ
という理由からです。
コルメシオ広場のツーリストインフォメーションには
リスボンの夜を楽しめるプランのリーフレットがあり予約もしてくれます。
私はそこで情報を得て、結局宿の人に電話予約してもらいました。
落ち着いた雰囲気の店内
観光客向けの店かもしれませんが、落ち着いた店内で
ウェイターのおじさんもとても丁寧な対応でした。
ポルトガルの地方から来た観光客のグループ、韓国客風カップルが数組、
そして私だけ。
ディナー込みのお値段でメニューも決まっているので注文を心配する必要はありません。
ポルトガル名物バカリャウ(干し鱈)を使った料理、
どれも美味しくいただきました。
生の歌声はやはりいい!
生伴奏に数名の歌手が登場します。
女性 ベテランのおばさま2人と若い女性、男性1名。
ベテランのおばさんの一人が一番上手く若手のお姉さんの謡もよかったです。
数人聴き比べられるのはいいですね。ファドは女性が歌うものと思っていた時だったので
男性歌手の謡も魅力的でよかったです。
(コインブラの男性歌手がアカデミックなのに対し、こちらリスボンの歌手は演歌風に感じました)
謡の間にギターラの素晴らしい独奏が入るのでこれにも満足でした。
ファドは郷愁漂う寂しそうな音楽だけかと思いがちですが
楽しい軽快な音楽も沢山あります。
このお店ではいろんなタイプの曲を披露してくれました。
歌詞の意味がわかればもっとファドのことを深く理解できただろうに・・残念!
最後に歌手4人の合唱が何曲かあり終了。
その後歌手達が個人のCDを販売するために各テーブルを回ってきます。
ロウソクの灯りの中で心に響いてくる力強い歌声はCDや動画では得られない
「空間を共有する」良さがあるので、機会があれば是非出かけて体感してみて下さい。
*こちらのお店はファド初心者にはとてもいいと思います。
ファドに詳しい方や酒場に慣れている人はアルファマ地区に数多くファドを聴かせる飲み屋が
あるのでそちらに足を運んでくださいね。
営業時間:20:00~2:00(ファドのショーは21:00~)HPはこちら
最低消費(ショー込みで35ユーロ)
(ショー込み)ツーリストメニュー:55ユーロ
パン、スープ、メインディシュ、デザート、ワンドリンクとコーヒー
これだけでも十分な量で満腹でした!
おすすめのファド歌手
Marizaは若いながらも実力のあるファド歌手です。
ポルトガルファド、ボサノヴァ、ラテン、アフロと、いろんな音楽系統が混じっている歌で「Morna=モルナ」と呼ばれる音楽を裸足で歌う「歌姫」
セザリア・エヴォラ も個人的におすすめ。
ポルトガルとブラジルの中間、大西洋上の島 カーボ・ベルデ共和国の女性歌手です。
彼女が歌う「Fado in Lisbon」も素敵です!
今日もご覧くださりありがとうございました!!
リスボンの旅はまだ続きます^^
←一人の歌手をじっくり聞くならマイーザ。
近年の歌手なので音源も安定していて聞きやすいです。
←音源が古いものもありますが
リスボン、コインブラ両方のファドを聴き比べられます。
女性歌手が多めですが男性歌手も。